ロボットアクチュエータとして有力なブラシレスDC(BLDC)モータを制御するモータドライバ選びは重要です。BLDCモータと減速機、モータドライバが一体となったT-motor/CubeMarsのAKシリーズモータモジュールは標準のモータドライバをMAB RoboticsのMD80モータドライバと交換できます。
AKモータをそのまま使うのとMD80に交換して使うのと、どちらがいいでしょうか? ざっくり比較してみました。
目次
モータとモータドライバの紹介
T-motor/CubeMars AKシリーズ
AKシリーズモータモジュールは4脚ロボットやヒューマノイドロボット、外骨格型ウェアラブルロボットへの利用を想定したいわゆるQDD(準ダイレクトドライブ)モータ製品です。T-motorのロボット向け製品のブランドがCubeMarsで、それぞれウェブサイトがあります。
AKモータは直径が大きくて厚みが薄いパンケーキ型で、背面にモータドライバが搭載されています。直径の大きいAK10やAK80向けのドライバはDriver-board-V2.1、直径の小さめなAK60向けのドライバはDriver-board-V2.2と呼ばれています(2024年9月時点)。バージョンは新・旧ではなくサイズを表していることと、AK60専用のV2.2は定格電圧が24Vで、V2.1よりも低いことに注意が必要です。
MAB Robotics MD80モータドライバ
MAB Roboticsはポーランドのロボットスタートアップで、モータドライバMDシリーズを主要製品としています。MAB Roboticsはヨーロッパ方面でのT-motorの正規代理店です。その関連かMD80の基板の取り付け穴はAKシリーズの純正ドライバと互換性があります。また、ドライバをMD80に換装したバージョンのAKシリーズモータも販売しています。
MD80の基板の取り付け穴は、AK80だけでなく小型のAK60にも対応しており、純正ドライバとちがって異なるドライバを使い分ける必要がありません。
価格の比較
例えば、T-motor/CubeMars AK80-8 KV60は、モータドライバありで$569.90、モータドライバなしで$469.90です。MAB Robotics MD80は220EUR、約240USDなので、MD80を使うと純正ドライバを使うよりも140USDは余計にコストがかかることになります。
仕様の比較
それぞれのモータドライバの仕様を下記のように簡単に比較してみました。
T-motor/CubeMars Driver-Board-V2.1 | MAB Robotics MD80 V3.0 | |
価格(2024年8月時点) | 129.90 USD | 220.00 EUR |
寸法(外径) | ∅60 mm | ∅55 mm |
電源電圧範囲 | 18V〜52V | 10V〜48V |
出力定格電流 | 20 A | 20 A |
出力ピーク電流(1相) | 60 A | 80 A |
通信速度 | 1 Mbps (CAN 2.0 B) | 1, 2, 5, 8 Mbps から選択 (CAN FD) |
終端抵抗 | 非搭載 | 設定でON/OFFを切換可 |
搭載マイコン | STM32 F405RGT6 @ max 168MHz | STM32 G474CEU6 @ max 170MHz |
エンコーダ | 磁気式 14bit アブソリュートエンコーダ | |
エンコーダのゼロ点 | 揮発性メモリに設定 | 不揮発性メモリに保存可能 |
コネクタ | 電源: Amass XT-30 CAN: CJT A1257コネクタ4ピン (JST GHコネクタと互換) UART: CJT A1257コネクタ2ピン (設定書込用) | 電源・CAN:MOLEX Micro-Fit 3.0 2×3ピン 外部エンコーダ(SPI): Molex, picoblade 6ピン RS422/GPIO:Molex picoblade 8ピン |
一番大きな差はやはり通信速度ですが、電源電圧範囲の広さや終端抵抗の内蔵、エンコーダのゼロ点設定の保持など、MD80の方が細々とした機能も充実していて便利な印象です。一方で価格はその分高い、という感じでしょうか。
主要な素子の比較
主要な搭載回路部品についても型番を調べてみました。何かの参考になれば幸いです。
ぱっと見てわかる大きなちがいとしては、MD80がBLDC専用のゲートドライバ(Texas Instruments, DRV8300D)を使用してNチャンネルMOSFET(Vishay Siliconix, SiDR626)で構成したハーフブリッジ3相を駆動しているのに対し、CubeMars Driver-Board-V2.1はゲートドライバIC(EG Micro, EG3116D)を3個使って、2個ずつ並列化したMOSFET(HY Electronic, G035N08)合計12個を制御している点があります。
磁気エンコーダICはCubeMars Driverがams OSRAM AS5048A、MD80がAS5047Dで、ほぼ同等です。MD80はさらに外部エンコーダ用のコネクタがあり、オンボードのエンコーダICを使わずに使うこともできます。
おわりに
モータドライバはスペックよりもむしろ安定性(通信が切れない、焼損しない)が大事ですが、その評価は難しいところです。
この技術記事は、明治大学理工学部 複雑ロボットシステム研究室(新山研)大学院生の阿部さんが主に執筆し、ロボット博士の新山が加筆修正したものです。