研究の常識:論文を探せ!

学術論文がどんなものかは別の記事「研究の常識:論文ってなに?」をまずは読んでみてください。
今回は実践編として、論文を手に入れる方法を解説します。
理工系・情報系の汎用的な論文探しの方法を紹介しますが、とくにロボット分野に特化した部分もあります。

広くGoogle Scholarで検索する

主要な学術雑誌は電子化されており、論文はPDFで読むのが主流です。また、研究成果をオープン化しようという大きな流れがあり、無料で読める学術論文が増えています。こういった背景から、ネットで検索するのが基本的な論文の探し方です。

しかし、例えば「ロボット論文」というつもりでrobot paperと検索しても、ロボット紙工作のWebページが出てくるばかりです。まずは検索対象を学術論文に絞りましょう。そこで便利なのがGoogle Scholar(グーグルスカラー)です。Google Scholarは、ジャーナルや国際会議の名前がわからなくても、ウェブ上でアクセスできる論文を広く検索できます。

Google Scholarのトップページ

例えば”soft robotics”で検索してみましょう。たくさんの論文が見つかります。見出しになっているのが論文タイトルです。右側に[PDF]というリンクが表示されているものは、すぐにPDFを読むことができます。

Google Scholarで”soft robotics”と入力したときの検索結果

他にもいくつかの基本情報が手に入りますが、例えば「引用元(Cited by)」の数字は、この論文を引用している他の論文の本数です。引用(citation)とは、論文の中で「ここまで研究は進んでいます」と説明するために、先行する研究論文を参考文献(references)として挙げることです。引用と言っても、文章をコピーして掲載する引用(quotation)とはちがうので注意しましょう。被引用数が1000を超えるような論文は、他の研究者にたくさん参照されている論文であることを意味します。ある分野の基礎となった有名な論文や、分野の背景を説明するのに便利な解説論文(レビュー論文)はたくさん引用されます。

検索フレーズを探すところからが研究

論文の検索そのものは簡単なのですが、目当ての論文を見つけることは意外と難しいものです。というのは、興味関心のあることがどんな専門用語(technical term)と関連が深いかを知る必要があるからです。

例えば「人の気持ちがわかるロボットに関する研究」を探したいとしましょう。そのまま検索しても、総論ばかり出てきてしまいます。「意図推定」「心の理論」といった関連する専門用語が見つかると、より深く調べることができます。おもしろい論文が見つかったら、その中から専門用語を拾い上げてさらに検索してみましょう。

とはいえ、初学者が適切な専門用語を探り当てるのは難しいことです。知識と経験のある先輩や先生にアドバイスをもらうのが近道です。

そして、英語で検索して英語論文を読むことにも慣れましょう。日本語論文だけを読んでいると、国際的な動向や、最先端のアプローチを知るのがかなり難しくなります。

イモヅル式検索法で先行研究と後続研究を引っ張る

名付けるほどではないですが、サツマイモのつるを引くとそれにつながった地下の芋が次々と引っ張り出せるのと同じように、ひとつの論文から次々と関連論文を引っ張るのはよくやることです。

まず、年代をさかのぼって先行研究を探す方法です。これは論文の末尾にある参考文献(References)の欄を見ます。ここに載っている論文のタイトルなどをコピーして検索すれば、関連が深い先行研究を探すことができます。現代では、出版社のウェブページではリンク付きの参考文献を見ることもでき、クリックするだけで先行研究にアクセスできます。

論文の参考文献から芋づる式に文献を探す

ところで、論文タイトルをそのまま検索すると、その単語をばらばらに含む似たような論文がヒットしてしまうことがあります。これはGoogle検索の基本ですが、単語の順序も重要なフレーズを検索するときは半角のダブルクォーテーション(”)で囲みます(例:”printable soft actuators integrated with computational design”)。

研究者は一貫したテーマに取り組んでいるはずなので、同じ著者による別の論文を探すのも有効です。

次に、ある論文がその後どのように発展していったか、後続研究を探す方法について。論文そのものに未来のことは書いてありませんので、論文データベースを頼ることになります。現代においては、CrossRef、Web of Science、Scopusなどの論文データベースが発達しており、引用関係も記録されています。下図のように、論文は引用する・されるという関係でつながって、知のネットワークを作っているのですね。これは有向グラフです。

論文引用のネットワーク(Citation Network)

論文データベースから後続研究をたどる方法として、簡単なのはGoogle Scholarの「引用元(Cited by)」のリンクをクリックすることです。論文をその後に引用した後続研究がリストされます。また、次の項で紹介するような出版社のサイトでも、その論文を引用している論文のリストにアクセスできます。

主要なオンラインライブラリー

学術雑誌(ジャーナル)や国際会議録(プロシーディングス)を発行する出版社や学術団体が、それぞれ独自のデジタルライブラリをウェブ上に展開しています。取り扱い論文の数が多い、主要なオンライン論文ライブラリを紹介します。

IEEE Xploreは世界最大の学術団体であるIEEE(アイトリプルイー、Institute of Electrical and Electronics Engineers)が運営するデジタルライブラリ。

ロボット研究関連では、IEEEの分科会であるIEEE Robotics and Automation Society (RAS)がIEEE Transactions on Robotics (T-RO)やIEEE Robotics and Automation Letters (RAL)などのジャーナルを発行している。また、ICRA、IROS、RoboSoft、ROBIO、RO-MANなどの主要な国際会議を開催しており、それら全ての論文がIEEE Xploreに掲載される。

SpringerLinkは学術出版社であるSpringer Natureが運営するデジタルライブラリ。ジャーナルやプロシーディングスの他、ハンドブックやテキストブックが多いのが特徴。

ロボット研究関連では、SpringerLinkはCLAWARやRomansyなどのロボット系の国際会議で発表された論文を集めたものを出版物として発行しており、個々の国際会議論文はその書籍のチャプターとして扱われる。

ScienceDirectは学術出版社であるElsevierが運営するデジタルライブラリ。

Elsevierはロボット系のジャーナルとしてRobotics and Autonomous Systemsなどを擁する。

Wiley Online Libraryは学術出版社であるWileyが運営するデジタルライブラリ。

Wileyはロボット系のジャーナルとしてJournal of Field Roboticsを擁する。

J-STAGEは国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォーム。日本の学会誌の多くが収録されている。日本語論文を探すならここ。

ロボット関連では、日本ロボット学会誌、日本機械学会誌、計測自動制御学会誌、そしてロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集などがJ-STAGEで読める。

ASME Digital CollectionはASME(American Society of Mechanical Engineers、アメリカ機械学会)が運営するデジタルライブラリ。

ASMEではロボット系の論文は多くない。ASMEのロボット系のジャーナルとしてはJournal of Mechanisms and Roboticsがある。ちなみにIEEE/ASME Transactions on Mechatronics (TMECH)の論文はIEEE Xploreからアクセスできる。

ACM Digital LibraryはACM(Association for Computing Machinery、アメリカ計算機学会)が運営するデジタルライブラリ

ACMではロボット系の論文は多くない。HCI (human-robot interaction)関連のCHI、UIST、TEIのプロシーディングスをカバーする。ロボット系の国際会議ACM/IEEE International Conference on Human-Robot Interaction (HRI)の論文はACM Digital LibraryとIEEE Xploreの両方で読める。

論文が有料で読めないとき

上記のようなオンラインの論文ライブラリでは、多くの論文で、PDFをひらこうとするとサインインや購入を求められてしまいます。学生の皆さんは大学に行き、大学のネットワークを通じてデジタルライブラリにアクセスしてみてください。そうするとページ上部に「Access provided by: 」などと大学名が表示されて、アクセスできるようになります。これは、学生や教員のために大学が出版社に講読料を払ってくれていることを意味します。もしアクセスできない場合は、大学がその出版社やジャーナルと契約していないのかもしれません。大学図書館のウェブサイトなどで調べてみてください。

研究活動のために大学が出版社に払っている電子ジャーナル講読料は莫大です。例えば東京大学では年間十数億円を支払っています。学生のうちはタダで論文を読めるので、たくさん論文を読むと学費の元がとれます。

研究機関に所属せずにジャーナルの論文を読むにはどうすればいいでしょうか。ひとつは、オープンアクセス(OA: Open Access)の論文を探すことです。有料のジャーナルでも、著者が追加料金を払ってオープンアクセスにしている場合があります。例えば IEEE XploreではOA論文には下のようなアイコンがついています。

オープンアクセスのアイコン

また、オープンアクセスジャーナルと呼ばれる、ジャーナル全体がオープンアクセスのジャーナルもあります。Scientific Reportsはそのひとつです。

Scientific Reportsは学術出版社のNature Portfolioが発行するオープンアクセスジャーナル。

最近は、研究成果のオープン化の動きが進んでいます。せっかくの研究成果が、講読料を払える一部の人にしかアクセスできないものになっているからです。そこで、オープンアクセスジャーナルを利用する以外にも、論文の著者は大学や研究所が用意する研究成果データベースである機関レポジトリに同じ内容をアップロードすることが推奨されています。

研究者のSNSであるResearchGateは、個別の機関レポジトリよりもよく利用されています。たくさんの研究者がプロフィールを登録するとともに、自らの論文を公開しています。ただし出版社が作成した論文をそのまま無料公開するのは著作権の問題がありますので、出版物とは体裁の異なる校正前の著者バージョンをアップロードする場合が多いです。

ResearchGateは研究者のSNSで、著者自らが論文PDFを公開しているほか、質問が投稿できる。

そいういうわけで、出版社のサイトでは有料の論文でも、論文タイトルでウェブを検索すれば著者のウェブサイトや機関レポジトリ、ResearchGateで別バージョンの論文PDFを見つけられる場合があります。

論文の電子ファイルが見つからないとき

電子化される以前の学術雑誌や学会誌の古い号も、スキャンによってデジタルアーカイブ化が進んでいます。しかし、古い論文は何らかの事情で電子ファイルが提供されていない場合があります。古典的論文であれば講義資料などとしてスキャンした論文がウェブ上に見つかることもあります。まずはウェブを検索してみることです。

それでも見つからない場合は、紙の学術雑誌を収蔵している図書館を調べて物理的に読みに行きます。遠くの図書館だった場合は、所属機関の図書館を通じて複写サービスを申し込むとよいでしょう。収蔵資料の一部をコピー機を使って手作業でコピーしてくれるサービスです。また、海外の図書館に複写を申し込むこともできますが、少しお金がかかります。レア論文を探すのは宝探しのようで楽しいのですが、研究が進むわけではないのでハマりすぎないようにしましょう。

昔は、学術雑誌や学会誌は印刷物としてしか流通していなかったので、論文を紙で読むことも、図書館に行って論文を探すことも当たり前で、それ以外の手段はありませんでした。

読んだ論文の管理

読んだ論文を紹介するとき、論文タイトルだけ、あるいは著者名だけ載せると、情報が不完全なので怒られます。また、著者名を省くのは研究を行なった人への敬意に欠ける行為です。「どんな論文?」と聞かれたときに完全な書誌情報(著者、論文タイトル、ジャーナル名もしくはプロシーディングス名、巻・号・ページ、発表年西暦)を答えられるようにしましょう。

論文の細かい書誌情報をメモするのは大変です。論文データベースには書誌情報をエクスポートするボタンがあるのでそれを使いましょう。また、読んだ論文を後で検索したりダウンロードしたPDFとリンクしたりするために、論文管理ソフトを使うとよいです。詳細は割愛しますが、論文管理ソフトとして例えばMendeley Reference Managerがあります。

まとめ

現代では、論文は電子ファイルを探して読むのが普通になりました。Google Scholarや、各種のデジタルライブラリから論文PDFを検索しましょう。検索するときは、適切な専門用語を使うことが大事です。無料で読めるオープンアクセス論文が増えていますが、有料の論文も多いです。大学生は大学が契約した電子ジャーナルを読み放題なのでとても恵まれています。活用しましょう。時には紙の学術雑誌や学会誌もめくってみてね。

更新履歴:

  • 2022年10月3日 細かい語句の修正、ResearchGateの紹介を追加
  • 2022年10月2日 公開

(文責:新山龍馬)

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